親権者と未成年の子の利益相反行為【ケース別に解説】

親なのに子供を代理できない!利益相反行為

親と未成年の子の間で不動産の売買をしたり、相続財産の遺産分割協議をするときは親は子を代理することができません

したがって、親子間でこのような利益相反行為(一方が有利になり、もう一方は不利益になる可能性がある行為)をするためには、親や未成年者に特別代理人をつけなければなりません

今回のコラムでは、そもそもどのような行為が利益相反にあたるのか、利益相反にあたる場合は具体的にどのようにして法律行為を行うのかについて具体例を挙げて解説します。

【前提知識】親権者の代理権について

民法では親権者は未成年の子を代理して法律行為を行い、未成年者が行った法律行為は親権者の同意がなければ取り消すことができると定められています。

【民法5条】

(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる
3 省略

つまり、未成年者は親権者が代理をするか、親権者の同意がなければ完全な法律行為ができないということです。

利益相反行為の基本知識

親権者と未成年の子の利益相反行為について

前項では親権者は未成年の子を代理し同意することができるとご説明しました。

ただし、親権者である親と未成年の子の間で、売買遺産分割協議の話し合いといった利益相反行為をする際には、親は未成年の子を代理することができません

【民法826条】

(利益相反行為)
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為について、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為について、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない

この条文の趣旨は親権の濫用から子を守ることです。親と未成年の子の間で利益相反が生じる可能性があるからです。

例え親が素晴らしい人格者であり、子のために最善の手段を選んだとしても、法律はそう簡単に認めてくれません。少し難しい言い方になりますが、現在の判例では親が内心でどう思っているかという動機・意図を考慮すべきではないと考えているためです。

利益相反行為に当たるもの当たらないもの

どのような行為が親権者と未成年の子の利益相反行為になるのかを簡単にまとめました。

利益相反にあたる場合利益相反にあたらない場合
  • 親権者と子の間の売買
  • 親権者が養育費にあてる目的で親権者の名義で金銭を借入れ、その債務を担保するために子の所有する不動産に抵当権を設定
  • 子に相続放棄をさせる場合
  • 親権者と子の間における遺産分割
  • 親権者から子への負担なし贈与
  • 親権者が自己の用途に供しようとする動機で子の名義で金銭を借入れ、その債務を担保するために子の所有する不動産に抵当権を設定
  • 親権者が子と同時に、または先に相続放棄をしてから子に相続放棄をさせる場合

利益相反行為の5つの具体例

ケース1「父または母と未成年者が売買契約をする場合」

図表の利益相反にあたる場合の1つめのケースです。

未成年の子が祖父からもらった土地を売買する場面を思い浮かべてください。

婚姻中は父と母の共同親権ですので、子の代理権は2人で行使することになります。

通常の売買のように第三者が買主であれば両親が子を代理して契約を結びます。

ここで問題になるのが例えば、買主が父の場合です。

親権者である父が子を代理して子の不動産を自分に売るわけですから明らかな利益相反行為です。

一見、母が子を代理して父と売買をすればいいように思えますが、それはできません。前述したように子の代理権は夫婦で共同して行使する必要があるからです。

どういうことかというと次の図のイメージになります。

 

繰り返しになりますが、基本は2人で行う共同親権です。

ですので、このように父とだけ利益相反になる場合は母の単独親権になるのではなく、父の代わりになる特別代理人を家庭裁判所に請求し、その特別代理人と母で子を共同代理して父と売買契約を結ぶことになります

ケース2「親の借金を子の不動産で担保する場合」

図表の利益相反にあたる場合の2つめのケースです。

先ほどのケース1と同様に未成年の子が祖父から土地をもらっていたとします。

上の図のように、父が子の土地を担保に入れて銀行からお金を借りたとします。(※土地を担保に入れることを正確には「土地に抵当権を設定する」という言い方をします)

このケースは明らかな利益相反行為です。

もちろん借りたお金を返済するのは子ではなく父です。延滞などせず順調に返済し続ける限りは特に問題はありません。

しかし、もし返済が滞ってしまったら最悪の場合、銀行は土地を競売にかけて売却してしまうので子は土地を失うことになります。

つまり、父にとっては利益があり、子にとっては一方的に不利益な契約ですので利益相反行為となるわけです。

この場合も前項と同様、父の代わりとなる特別代理人と母で子を共同代理することになります

なお、父が自分のためにお金を借りる場合は当然ですが、仮に子の養育費にあてるつもりでお金を借りたとしても利益相反行為となります。

現在の判例では親権者が内心どう思っているかは考慮せず、あくまでも外形上だけで判断するためです。

ケース3「子にだけ相続放棄させる場合」

図表の利益相反にあたる場合の3つめのケースです。

これはタイトルを読んだだけで明らかな利益相反行為だと分かりますね。

上の図でAが死亡した場合、相続人は配偶者Bと子2人です。本来であれば3人でAの遺産を分け合うことになります。

なお、このように死亡や離婚などで親権者が1人になったときは共同で親権を行使できませんので、その親権者の単独親権となります。

このケースでBが子2人を代理して相続放棄をさせた場合、相続人はB1人になるためAの遺産は全てBが相続します。

外形上は明らかな利益相反行為です。

仮にAの遺産を子2人のために使う予定であり、遺産をすべて母であるB名義にした方が管理がしやすいといった事情があったとしても、前項と同じようにそういった内心までは考慮してくれませんのでこのケースも利益相反行為となります。

もしこのケースで子にだけ相続放棄をさせる場合は子2人にそれぞれ別々の特別代理人をつける必要があります

子の利益を保護するため等の理由が裁判所に認められれば、その特別代理人が子を代理して相続放棄をすることになります。

なお、Bが先に、もしくは子2人と同時に相続放棄する場合は利益相反行為にはなりません。「お母さんは相続放棄するからいっしょにしようね」といったイメージでしょうか。

ケース4「親も子も相続人である遺産分割協議」

図表の利益相反にあたる場合の4つめのケースその1です。

次の図のような家族構成の遺産分割協議をイメージしてください。

Aが死亡したときの相続人は配偶者Bと子2人です。この場合にAの遺産を相続するためには全員で遺産分割協議をしなければなりません。

ただし、未成年者は単独で遺産分割協議をすることができませんので、このケースでも親権者に代理してもらう必要があります。

ここで問題なのが親権者であるBも相続人ということです。

Bが子を代理して遺産分割協議をすることは利益相反行為にあたります。

Aの遺産をBの思い通りにできてしまうからです。

前項の相続放棄のケースと同様、Bが子のためを思って将来的に子の利益となるように遺産分割をするつもりでも、やはりそういった内心は考慮せず、あくまでも外形上で判断されます。

今回のケースではBは両方の子を代理することはもちろんできませんし、どちらか片方の子を代理することもできません。

この場合には図のように子2人にそれぞれ別々の特別代理人をつけなければなりません

最終的にはB、子Cの特別代理人X、子Dの特別代理人Yの3人で遺産分割協議を行うことになります

ケース5「子だけが相続人である遺産分割協議」

図表の利益相反にあたる場合の4つめのケースその2です。

次の図のような家族構成の遺産分割協議をイメージしてください。

先ほどは核家族でAが亡くなったときの遺産分割協議でしたが、今回はその後にAの父Eが亡くなったときの遺産分割協議のイメージです。数字は亡くなった順番を表しています。

いわゆる「代襲相続」のケースになります。

まずAが亡くなり、その後にEが亡くなりました。

本来であれば亡くなったEの相続人は、Eの配偶者とAですが、Aはすでに死亡しているので相続人にはなれません。

そういった場合は「代襲相続」といってAの直系卑属である子Cと子Dが、Eの相続人になります。

ここでポイントなのがAの配偶者Bは、Eの相続人ではないということです。今回のケースではEの相続人はEの配偶者、C、Dの3人になります。

したがってEの遺産分割協議を行うときにBは全くの部外者という扱いになるため、親権者として子を代理しても利益相反行為にあたりません

ただし、2人の子を両方代理することはできません。なぜならば子同士の利益相反になってしまうからです。

結論としては図のように代理できない子Cに特別代理人をつけなければなりません

最終的にはEの配偶者、子Cの特別代理人X、子Dの親権者Bの3人で遺産分割協議をおこなうことになります

まとめ

今回は親権者である親と未成年の子の利益相反行為について、5つの具体例を交えてご説明しました。

親子間の利益相反行為のポイントを以下にまとめます。

  • 未成年者が法律行為を行うには親権者の代理または同意が必要
  • 婚姻中は夫婦の共同親権のため子の代理は2人で行う
  • 死亡や離婚等で親権者が1人になったときは単独親権となる
  • 親の内心は考慮されずあくまでも外形上で利益相反が判断される
  • 親の一方と利益相反になるときはもう一方の親特別代理人で子を代理する
  • 単独親権で利益相反になるときは子ごとに特別代理人をつける
  • 単独親権で利益相反にならないときも親が代理できるのは子1人だけ

以上です。

当事務所では特別代理人選任の申立ても取り扱っておりますので、何かご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。

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